「結局のところ、私たちの事業の基盤は知見です」

 

 

保険業界は保守的で安定しているのでしょうか。チューリッヒ・インシュアランス・グループ ( 以降「チューリッヒ」) ではそうではありません。150年近くに及ぶ歴史を持つ生命・財産・損害・営利保険のプロバイダーである同社は、根本的な変革を経験しています。チューリッヒの CEOは株主に対する最近のスピーチにおいて、「テクノロジーを活用した顧客主導の変革を推進することにより、新しい方法で当社のお客様、株主、従業員、社会のためにより幅広く価値を創造します」と語りました。

これは、チューリッヒが顧客、簡素化、イノベーションのために新たな取り組みを進めていることを意味します。チューリッヒには、215以上の国と地域で働く約 5万 5,000人の従業員がおり、直近の会計年度の総売上 (単位連結資産運用での正味資産運用利益を除く) は 523億ドルで、一部の中規模国の国民総生産を上回っています。

サジーブ・ナイル氏は2009年からチューリッヒに勤務し、以前は同社のITソーシングの責任者でした。

 

――チューリッヒの変革戦略の基礎となる3つの要素をどのようにサポートしていますか?

2017年~2019年の戦略サイクルを開始したとき、私たちはお客様第一主義と簡素化の強化に主眼を置いていました。ITは15億ドルの経費削減を達成するための重要な原動力でした。私たちは 70を超えるデータセンターを13に統合し、140を超える ITネットワークプロバイダーを1社に絞りました。また、この戦略サイクルの間に 550超のアプリケーションを廃止することで、アプリケーションランドス ケープを簡素化しました。さらに、インソーシングと選択的なクラウドソーシングを通じて IT部門の人員も強化しました。イノベーションの面では、イノベーションを志向する文化を組織に組み込むことに重点的に取り組んでいます。

次期の戦略サイクルではいくつかの微調整を行いますが、トップを行くお客様第一主義の保険会社の構築に向けた取り組みは引き続き戦略の中核です。私たちが重点を置くのは、投機的な購入者を長期的な顧客に転換することです。今後は、商品とプロセスの簡素化に加えて、商品とデリバリモデルのイノベーションの加速にさらに注力します。

 

――大規模なデータセンター統合にどのように対処しているのですか?

取り組みを開始してから数年が経ちました。もちろん、データセンターの数に比例して、保護対象が増加します。このため、セキュリティバイデザイン(セキュリティをあらかじめ考慮した設計)は私たちの組織のDNAにすでに刻み込まれています。

私たちの統合プログラムは大規模であり、現在は最終段階にあります。事実、8つほどの戦略的データセンターに集約するという目標に向けて、プログラムは順調に進んでいます。たとえば、スイスのデータセンターの大部分を、環境の観点からより新しく持続可能なロンドンのデータセンターに移行しました。これが最大の移行でした。

この移行はメインフレームを含む当社のインフラストラクチャの大部分を対象としており、さらにスイス以外の多くのデータセンターの統合も含んでいたため、全体としてかなり大規模な取り組みでした。

 

――チューリッヒの新しいデータセンター戦略では、クラウドをどの程度活用していますか?

チューリッヒのクラウド戦略には 2つの要素があります。1つはDXC Technology とともに検討するプライベートクラウド、もう1つは パブリッククラウドです。過去 24か月で、パブリッククラウドの利用が大幅に増加しており、現在アプリケーションの約35% がパブリッククラウドかプライベートクラウドのいずれかで稼働しています。

クラウド化の取り組みのいくつかは、約75のプログラムを含む簡素化プログラムポートフォリオの一部でもあります。たとえば、北米のデータレイクをAzureに移行したプログラムもその1つです。

さらに、クラウドコントロールプレーンを構築し、アプリケーションがクラウドでホストされている場合に、必要であれば他のクラウドに移植できるように、手順を構築しました。また、クラウドに展開するすべてのアプリケーションが確実にセキュアバイデザインであるよう取り組んでいます。

 

――およそ 600のアプリケーションをどのように廃止したのですか?

アプリケーションの廃止は、未だ進行中です。チューリッヒの主要事業部門の多くは、過去数年間この取り組みを続けており、廃止措置に向けた規律と体系的なアプローチを実践しています。入手が比較的困難な一部のアプリケーションに対しては、アプリケーションの廃止またはクラウドへの移行を可能にするための財政支援を伴う簡素化プログラムを策定し、技術的負債を削減しました。古いアプリケーションや未使用のアプリケーションはすべて 廃止する必要があります。私たちの環境にはゾンビを残しません。

多くのアプリケーションが廃止されましたが、それでもまだ約2,300が残っています。簡素化の最中にあっても、今後デジタル化を進めるにつれて、新しいアプリケー ションを導入する必要がありますし、買収の結果として増えたアプリケーションもあります。私たちは、新たに追加する最新のアプリケーションの数が、廃止したレガシーアプリケーションの数を下回るように継続的に取り組みながら、結果的に環境内のアプリケーションを減らしていきたいと考えています。

 

――2018年にチューリッヒが発足させた、データ分析を行うCustomer Active Management (CAM) というグループはどのような業務を行っているのですか?

実は、2015年よりすでに継続的なデータ収集と分析のプログラムを実施していました。ヨーロッパには全社をサポートするデータ組織があり、北米地域の分析を行う別の組織や、各国の事業部門には独自のデータ組織もあります。保険事業は規制の対象ということもあり非常に地域性が強く、これまで当社のお客様も現地のサポートを重視する傾向がありました。したがって、現地レベルのデータ分析機能が必要です。

その後、スロベニアのリュブリャナにZurich Customer Active Management (ZCAM)という会社を設立しました。ZCAM ではシンプルで柔軟な独自の顧客分析プラットフォームを導入しており、これにより当社の販売ネットワークと代理店は、顧客のニーズを深く理解し、よりパーソナライズされた提案を行うことができます。

このリアルタイムのプラットフォームは、高度なテクノロジーの活用により、構造化 / 非構造化ソースとレガシーシステムのデータをより簡単に扱えるようにしています。これにより、当社は将来を見据えてパーソナライズされたシンプルな保険ソリューションを作成できます。結局のところ、私たちの事業の基盤は知見なのです。

 

――イノベーションはチューリッヒの新しい戦略の重要な柱です。しかし、チューリッヒのような大規模組織でどのようにイノベーションを促進しますか?

これは挑戦的な課題です。私たちは「文化」という最も 難しい要素を追求しています。かつて、イノベーションはどこかの役員室で起きるものでしたが、今は組織内の横のつながりを強化することがイノベーションの成長を可能にしています。たとえば、各事業部門にはイノベーションの推進者、つまりイノベーションを推進するために理念を擁護し、その重要性を人々に伝える人がいます。また、「Make the Difference」と呼ばれるプログラムでは、世界中の従業員が集まって革新的なアイデアを出し合っています。これまでに、4つの地域の 28か国から参加した1,250人以上の従業員が、2,000以上のアイデアを生み出しました。そのうち 700 以上のアイデアがグループ全体に対して提案され、60の取り組みが実行されました。

将来に向けて、私たちは自問しています。イノベーションをさらに拡大するには ? どうすればイノベーションを効率化して加速し、迅速に市場に投入できるか ? 人々に対してイノベーションをどのように奨励し、どのように持続可能な方法で資金を提供するか ? これらは、私たちが確立したいと考えているプロセスです。