5つのトレンドと日本へのインパクトとは

近年、テクノロジーは急速に進化しており、それらがビジネスにもたらす影響は計り知れません。中でも、ただITを導入して活用するだけでなく、ITによって自社のビジネスや業務そのものを変革する「デジタルトランスフォーメーション」が経営課題の1つとして挙げられています。企業が、これからのテクノロジーの動向を見極め、その変化に対してどう向き合っていくかが極めて重要であることは間違いありません。そのための一助としていただくべく、グローバルでビジネスを展開するDXCテクノロジーでは、2020年の技術動向として、次の5つを挙げています。

  1. AIが専門サービスを再定義
  2. ITサービス設計の考え方が、「人のため」から「機械のため」に変化
  3. エコシステムにおけるデータの価値が増大
  4. 高いパフォーマンスは、スーパースター達ではなくチームで発揮
  5. 新たなビジネスリーダー達がビジネスの変革を加速

 

では、これらは日本の企業や市場にどのような意味をもたらすのでしょうか。この5つのトレンドに対するグローバルの見解としては、「2020年のテクノロジートレンドと未来の仕事のあり方とは?」(以下、「5つのテクノロジー・トレンド」)で述べています。ただし、先進国として成熟した日本においては、もう少し踏み込むヒントが必要と考え、本稿では、DXCテクノロジー・ジャパンとして日本市場に特化した見方やアプローチを考察してみたいと思います。

 

1. 人工知能(AI)が専門サービスを再定義

人と「切磋琢磨」し、共進化する「拡張知能」としてのAIを目指す

「AIの民主化」とは?

2020年、Artificial Intelligence(人工知能)は法務、会計、医療、教育など、さまざまな専門サービスに大きな変革をもたらすと考えられています。

背景にあるのが「AIの民主化」です。実際、20年前に機械学習を利用した人工知能を実践しようとしたならば、データセンターに大規模なコンピューティング・リソースを確保し、機械学習の高度なプログラミングからデータの準備まで、すべて自力で対応しなければなりませんでした。私も当時、博士課程で機械学習の研究に勤しんでおりましたが、ハイスペックなワークステーションを数日間計算させることが普通でした。また、学習に用いるデータも今ほど簡単には手に入らず、データ自身を準備することにも難儀した覚えがあります。

それがどうでしょう、現在では、GPUを搭載した高性能なマシンや大容量のストレージ、機械学習や深層学習のライブラリ、各種サービスのAPIなどをクラウドサービスとして使い、中堅・中小企業、あるいは個人でも手が届くリーズナブルなコストで利用できるようになりました。また種々のオープンデータも簡単に活用できるようになっています。これがAIの「民主化=多くの利用者が自ら選び使えるようになった」と言われる所以です。

AIとともに人間も進化できる環境が重要

しかし、さまざまな専門サービスがAIで代替されるようになる懸念もあります。それは、これまで専門家が持っていたスキルや知見、推論の能力が失われていくことです。簡単に言うなら、AIに任せることで「考えなく」なってしまうということです。

DXCテクノロジーのグローバルの見解を記した「5つのテクノロジー・トレンド」では、「AIを再定義する必要がある」と指摘していますが、日本に関しては、AIの捉え方を人間の判断や意思決定、業務を単純に置き換えていくものだけでなく、人間の知能の増幅に役立てる「Augmented Intelligence(拡張知能)」とも位置付けて活用していく必要があるでしょう。

囲碁や将棋の世界がよい例です。この世界では、かなりのレベルのコンピュータプログラムが登場しており、昨今のプロ棋士はプログラムと対戦し練習を重ねています。コンピュータが集めた過去の膨大な対戦を追体験するとともに、その組み合わせにもない妙手を編み出さなければ、AIとの対戦はもとより人間同士の対局でも勝てない時代となっています。

もちろん、どんな妙手も、一度使えば棋譜データとして取り込まれて学習されるため、次回からは通用しなくなります。したがってプロ棋士も、さらに研究を重ねなくてはなりません。

このような“切磋琢磨”のサイクルが、AIと専門家の双方に“共進化”と呼ぶ相互作用をもたらすのです。そして、これこそが日本企業が目指すべきAI活用のあるべき姿です。日本人が持っている能力の平均値は世界でも高い水準にあり、なおかつ相手のことを想像しながら立ち向かったり、慮ったりすることに長けているからです。

AIが提示した答えや結果をそのまま横流しするだけでは新しい価値は生まれません。また、データのAIへの入力も、先の棋譜の例のように専門知識を持っていることが必要です。日本人ならではの能力と特性を生かし、AIと共進化することで、これまで考えが及ばなかった新たな知見や価値を生み出すことが可能になるはずです。

 

2. ITサービス設計の考え方が
「人のため」から「機械のため」に変化

「産業機器×高度なインテリジェンス」で日本企業の強みを活かす

注目すべき変化はエッジ・コンピューティングへのシフト

多くのITサービスが対象を人間から機械へ拡大しています。もちろん、これまでもアプリケーションやツール、ハードウェアの特性に応じたアーキテクチャやアプローチは重要でした。しかし、データの連携などは多種多様になる一方です。これに伴い、DXCテクノロジーのグローバルの見解では、「デザイン思考」を機械向けに拡大させていく必要性を言及しています。

ただ、誤解のないように注意が必要ですが、決して人間を無視したITサービスが主流となるわけではありません。そもそも、デザイン思考は人間を中心に据えた概念であり、どんなITサービスも利用者のことをまず考えることが大前提となります。

考え方を広げていく上で注目すべき変化は、いわゆるエッジ・コンピューティングへのシフトです。データが発生する、そのすぐ傍での即時データ処理が加速しています。

実は、この変化はITの歴史の中で、過去に何度も見た風景でもあります。ホストコンピュータ(集中処理)からオープンシステムのクライアント/サーバ(分散処理)、クラウド(集中処理)への移行を経て、エッジ・コンピューティング(分散処理)の時代が訪れようとしているのです。

製造業が「コト売り」へ転換するチャンス

エッジ・コンピューティングとそれ以前での、根本的な違いは何でしょうか?それはインテリジェンスが存在する場所です。エッジ・コンピューティングではITサービスの核心となる判断をエッジ側で実行できます。この背景には、処理演算素子の小型化やコストの低下により、種々のセンシングやデータの分析が、広く身近で行えるようになったことがあるでしょう。ラズペリーパイをはじめとする小型のコンピュータで、相応のデータ収集や分析が行えることを考えていただければ、わかりやすいかと思います。

このエッジ部分こそが、日本企業が強みを発揮できる領域であると私は考えています。例えば、高品質な製品で世界を席巻してきた日本の製造業の隠れたヒーロー、製品自体を作る製造装置、加工装置です。

これらの産業機器に高度なインテリジェンスを組み込むことが、工場や社会インフラのスマート化をリードするだけでなく、「製品売り」から「経験・成果売り」、いわゆる“モノからコトへ”のコンセプトを実現する鍵になるでしょう。仕様の決まった製品の売り切りから、その製品が稼働しつつ実際のデータを分析し、業務の成果を生み出すサービスを売る、というアプローチです。

今まで以上に高い付加価値サービスを提供していくために、エッジ・コンピューティングを既存の装置やデバイスなどの機械に取り込んでいくアプローチ、これを具体化するためにデザイン思考の対象を機械に―あたかも人間相手かのように―拡大していくことも必要です。

 

3. エコシステムにおけるデータの価値が増大

データの透明性や説明可能性を前提として、
フロー情報を知識・知恵に昇華する

データを共有する仕組みが求められる

現代のITは膨大な量のデータを生み出し続けており、企業はこれらのデータを活用することで新しいサービスやビジネスを創出するデジタルトランスフォーメーションへと向かっています。データは最も重要な経営資源となり、近年では「Data is the new oil(データは新しい石油)」という言葉も生まれ、注目されるようになりました。

ただ、すべての企業がこの時代の波に乗ることができていないのが実情です。特に日本企業では、事業部門ごとに構築されたサイロ状態のレガシーシステムが全社横断的なデータ活用を阻害している、あるいは過剰なカスタマイズがシステムの複雑化やブラックボックス化を招いているといった課題をよく見かけます。

日本企業がこの課題を克服し、組織横断さらには他社とも連携したエコシステム(生態系)を通じて、データを共有しながら活用できるようにするためには何が必要でしょうか。

細かい技術的な観点についてDXCテクノロジーのグローバルの見解としては、データを共有する個人の権利とデータを消費する企業の権利が認められるトラストメカニズム、および、「分散型ID」などの自己主権型アイデンティティ、ブロックチェーンベースの同意などの仕組みが、これから重要となってくると指摘しています。

その際に大前提となっているのは、データそのもののTransparency(透明性)とAccountability(説明可能性)の確保です。

例えば、車のエンジンコントロールユニットの組み込みソフトウェアを取り上げた場合、制御を司るさまざまなパラメータがなぜその値に設定されたのかという根拠がエンジンの実装には必須です。さらに、複雑・大規模になった車の電子制御系では、エンジンだけでなく、ミッションや空調などの他のユニットとの依存関係も検討しなくてはなりません。エンジンだけでなく、車一台分の最終的なソフトウェアを把握しつつも、エンジン自体の要求・仕様・実験結果の情報を束ねて裏付けること、つまり、透明性と説明可能性を担保することで初めて真にデータを活用・再利用することができます。

ナレッジやデータの共有で重要性を増す「フロー情報」

社員が持つさまざまな知恵や情報を組み合わせ、何らかの成果としていくことは、もともと日本企業が得意としてきたことです。例えば、設計開発部門と製造部門の間、あるいは生産ラインの前後のプロセスなどでは、日常的に“すり合わせ”を行い、なぜそうなったのか、なぜそうするのか、といった文脈や視点を共有します。

一方、そこには日本固有の問題もあります。部門間やプロセス間のやり取りがベテラン社員のコミュニケーション頼みで、やり取りされる情報が体系的なものではなく、頭の中だけにある暗黙的なノウハウに多くを依存しているのが実情です。その人財が定年を迎えてリタイアした場合、他の社員が代わりを務められなくなることが、日本では深刻な問題となっています。

こうした問題を解決するためにナレッジマネジメントといった試みをされる多くのお客様を私は見てきました。その経験を踏まえて提唱したいのが、「フロー情報の活用」です。

現場業務で作られる報告書や各種ドキュメント、メールのログなどの情報の多くは、随分と電子化されてきています。これまでは、改めてまとめなおす、整理しなおす、などの意識的な取り組みがなければ説明できる形(ストック情報)にできなかったのですが、多くの情報が電子化されてきている昨今では、日々の通常業務で生み出される情報(フロー情報)を再利用できるようになってきました。

フロー情報をデータマイニングするなどして積極的に活用し、ベテラン社員が持っている暗黙知を形式知に「知らず知らずのうちに」変えていく試みが、形式知化が苦手な日本には向いています。こうした工夫の上で、データや情報の透明性や説明可能性を徹底し、その先に、それらを全社的に活用できる知識・知恵に昇華させるゴールがあります。日本では、こうした一手間かける工夫が非常に重要になります。

 

4. 高いパフォーマンスは、
スーパースター達ではなく、チームで発揮

ジョブローテーションとチーム内の“異分子”が、
環境の変化に適応できる鍵に

流動性が低い現状を打ち破る必要がある

多くの企業は社員個々人の能力(生産性)をいかに高めていくかを重視しています。もちろん、この考え方を全面的に否定するわけではありません。しかし実際には、これよりも大事なことがあります。DXCテクノロジーのグローバルの見解としては、ダイナミックで複雑なビジネス環境に対応する組織づくりにつながるのはスーパースターを集めることではなく、多面的な人財が相互に連携するチームとしてのケイパビリティを高めていく人財獲得・育成戦略であると指摘しています。

例えるなら、野球やサッカー、ラグビーなどのチーム競技において、スーパースターを闇雲に揃えるだけでは勝ちにはつながらず、チーム全体のバランスと一体感が重要である、ともいえるでしょう。

では、日本のビジネスにおいて、組織として成果を出す能力を高めるためには何が必要でしょうか。その一つは、人財の流動性の向上です。諸外国に比べ、終身雇用や年功序列の文化が強い日本の人財流動性はきわめて低いと言わざるをえません。社会としての流動性が低いのはもちろん、組織内での流動性も低いのが実情です。今後の日本企業では、無理をしてでもジョブローテーションを、これまで以上に促していくことが必要です。

個人のキャリアパスとして、あるいは別の理由であっても、ジョブローテーションで企業内の複数の部署での業務を経験し、結果、企業を代表するような人財となられた方々にお会いすることがあります。その際いつも感じるのは、ジョブローテーションのねらいが、一種の帝王学教育ではあるものの、決して「覇道」を求めていない、という点です。各部を掌握し最後に「覇」を唱えるのではなく、組織の誰もが共感できる方向性を打ち出せる「王道」を身につけるのが、ジョブローテーションなのだ、という印象を私は持っています。

コラボレーションツールを使いこなせる力も重要

加えて今後は、チーム内に必ず “異分子”を混ぜることも求められてきます。日本の企業人の能力は、総じて高い平均値にあると考えます。しかし、時に突飛なアイデアを出す人がいるような、組織としての「能力の分散」は、決して大きいとはいえないでしょう。これを鑑みると、似たようなタイプの人財を複数のチーム間でシャッフルして平均値を高めることだけでなく、異分子を混ぜてチームに化学反応を起こし、分散を高めることも求められると考えます。生物の進化論にならえば、あちこちで突然変異が起こることで分散が高まり、環境変化に適応して生き残る可能性が高まる、といった意味です。

種々のITツールが活用できる現在では、チームのメンバーが、必ずしも同じ場所や時間で仕事を進める必要もありません。アジア、アメリカ、ヨーロッパ、アフリカなど、住んでいる国が違えば、活動している時間帯も違うといったメンバー同士がコラボレーションするチームの形も普通になっています。インターネットに接続できる環境と、SlackやMicrosoft Teamsなどのコラボレーションツール、そして多言語に対応できるリテラシー(例えば、翻訳ツールを使いこなす能力)があれば、これを実現することは十分に可能です。

裏を返せば、そうしたリモートや非同期型のITツールを使いこなして連携し合う、新たなコミュニケーション能力を育成していくことが、チームの能力を高めるための重要な鍵の1つです。

 

5. 新たなビジネスリーダー達がビジネスの変革を加速

「Π(パイ)型人財」の勧め、
そして、「H型人財」のリーダーがイノベーションを誘発する

テクノロジーへ常にアンテナを張る

ビジネスにおけるテクノロジーの存在が極めて重要になる中で、ビジネスリーダーに求められる要件も確実に変化していきます。では、これからのビジネスリーダーになるためにはどのようなことが必要でしょうか。

まずは、テクノロジーに対する高い関心が必ず求められます。これは、テクノロジーそのものの知識だけを問うているわけではありません。例えば、シリコンバレーや中国の深センなど、イノベーションの発信地にアンテナを高く掲げて情報を収集する必要があります。DXCテクノロジーのグローバルの見解としては「5つのテクノロジー・トレンド」にて、自社内に閉じた活動に視野を限定せず、オープンなイニシアチブへも積極的に参加する必要性も強調しています。広げるべきパートナーシップは企業だけに限りません。大学や研究機関も重要です。

さらに、次世代ビジネスリーダーを育成する企業は、社内文化を醸成することも必要です。そのためには、ハッカソンやアイデアソンなどの共創型イベントを広げていくことも有効な施策であると「5つのテクノロジー・トレンド」では述べています。

まったく異なる2つの専門分野を持つ人材が鍵に

では日本では、今後どのようなタイプのビジネスリーダー像が求められるのでしょうか。

これまでビジネスの世界でよく耳にしてきたのは「T型人財」です。専門分野の深い知識とともに横方向に広がるジェネラルな知見・経験を持ち合わせている人財を指します。

しかし、ビジネスを取り巻く環境が激しく変化する現在、専門分野が1つだけではその変化に対応しきれなくなってきているのではないでしょうか。そこで取り上げたいのが、ダブルメジャーとも呼ばれる「Π(パイ)型人財」です。「Π型人財」とは、少なくとも2つの専門分野を兼ね備える人財を指します。

2つの専門分野を持つことで関連分野が広がり、より多くの人財との接点やシナジーも見込めるようになります。その意味では、2つの専門分野は、(一見)異なる性質のものを目指すことが望ましいでしょう。極端な例を言えば、経営とデータバックアップ、機械設計と日本語処理、人事とネットワーク技術、といった感じです。

さらに、「H型人財」も日本では重要です。「H型人財」とは、専門分野(縦棒)に特化したスペシャリストたちの意味を理解しつつ、橋渡しをすること(横棒)のできる人財を指し、新たな組み合わせを見出すタイプです。新たな組み合わせとしてのイノベーション、共創を誘発する役割を担います。

いずれにしても、1つの分野のみに携わっているだけではΠ型人財やH形人財を生み出すことはできません。本稿の「4.高いパフォーマンスは、スーパースター達ではなく、チームで発揮」でも触れたジョブローテーションを通じた幅広い分野を経験することが、専門分野をまたいだ幅広い知見を養うことにつながり、結果、固定観念にとらわれない柔軟な発想力を持つ、王道としてのビジネスリーダーを育成する1つの方法なのです。

 

終わりに

以上、DXCテクノロジー本国が公開した「5つのテクノロジー・トレンド」のポイントに触れながら、日本市場における視点とアプローチを解説しました。いずれにおいても重要なのは、新たなトレンドを見据えつつ自社の組織や文化を、激しい環境変化にどのように適応させるか考え、実行し続けていくことです。

自社の強みや独自性を活かしつつテクノロジーの潮流を捉え、日本としてのビジネスを前進させていただければと思います。