食品廃棄とフードロスの問題は深刻

2015年9月、世界中のリーダーが集結して開催された歴史的な国連サミットでは、すべての人にとって「より良い持続可能な未来」の達成を支援する、2030年に向けた17の持続的な開発目標(SDGs)が採択されました。定められたのは、「ゼロ・ハンガー(飢餓の根絶)」の達成や栄養のある食品を継続的に享受できるようにするといった目標です。これは特に戦争で荒廃した国や発展途上国に暮らす子どもなど、最も脆弱で貧しい人々に向けたものです。

現在、栄養失調や飢餓に苦しむ人は約8億人。これは世界の人口のおよそ9人に1人に上る数字です。そのうち3分の2がアジアで暮らしています。こうした現状を考慮すると、飢餓の根絶は極めて難しい課題であることは明白です。

こうした衝撃的な統計が出ている一方で、毎年人が消費するために生産される食品の約3分の1(約13億トン)が食品廃棄(Food Waste)とフードロス(Food Loss)になっているとされています*。金額に換算すると、先進国では約6800億米ドル、発展途上国では約3100億米ドルに相当する額です。

先進国、特に欧米では食品廃棄の方が問題になっており、失われる食品の40%は小売店と消費者のレベルで生じます。よく「使い捨て消費文化」と言われるように、特に問題はない食品であっても、見た目や味が消費者の期待にそぐわなければ、賞味期限が切れる前でも再販や再流通させられることなくそのまま捨てられてしまいます。

アジアの発展途上国ではフードロスが問題になっており、失われる食品のうち40%が、サプライチェーンの初期段階、主に収穫後と加工の段階で生じています。これらのフードロスは、収穫後の保管、加工、輸送施設などのインフラが不十分であるために腐敗や損傷が起こることで発生します。

*「食品廃棄」と「フードロス」は日本語においてはしばしば混同して使われますが、本稿では食べられる食品が意図的に廃棄されることを「食料廃棄」、加工や保管の技術などの条件により意図せず食料の量が減ってしまうことを「フードロス」と呼んでいます。

問題解決にテクノロジーを活用する

食品がどんな理由でどの段階で失われているかにかかわらず、これは憂うべき世界規模の問題であり、解決するためには新たなアプローチが必要です。そこで役立つのがIoT、アナリティクス、ブロックチェーンなどの革新的な新興技術です。これらを活用して「農場から食卓まで」のサプライチェーン全体でプロセスとインフラを改善し続けることで、より持続可能な食品の生産と消費の方法が見つけ出せるはずです。以下、これらのテクノロジーごとに見ていきましょう。

IoT

まずアプローチの1つがIoTです。IoTを活用すれば、収穫から加工、輸送、保管までサプライチェーンの各ポイントをセンサーで厳密に監視することが可能です。

場所、温度、湿度、その他の環境条件を監視できるセンサーを使用することで、食品の鮮度と状態を維持するために先手を打って対処する方法が見つかるでしょう。

例えば、パッケージやパレットの単位でコスト効率よくセンサーを配置できれば、食品が生産から流通までさまざまな段階を経て移動する途中のあらゆる環境条件を追跡することができます。

これらのデータはすべてリアルタイムまたは一定の間隔でクラウドにアップロードされ、分析やリアルタイムのアラートも可能になります。接続に問題がある場合には、エッジコンピューティング端末にデータを集約し、ローカルレベルでの実行も可能になります。

アナリティクス

エッジであれクラウドであれ、アナリティクスの存在も不可欠です。例えば、収穫方法の改善、腐敗にかかる時間の予測、輸送時間の削減など、需要と供給をマッチさせるための最適な方法について知見が得られます。

例えば規範的分析(Prescriptive Analytics)技術を用いれば、食品製造者に賞味期限を伸ばす最適な方法を提示したり、配送業者に輸送時間を短縮する最適なルートを示したりなど、過去データの分析や単なる予測分析を越えた、より高度な知見を得ることができます。

これまでのシステムと異なり、最新のアナリティクスシステムは天気や交通状況、食品産出統計などの外部データと、機械類の稼働時間、労働者のスケジュールなどの内部データをシームレスに取り混ぜることができます。

例えば、一部の日本の食品製造企業は、内部データと外部データを高度なアナリティクスで連携して、2030年までにフードロスを20%も削減するという政府の目標達成を目指しています。

ブロックチェーン

フードロスおよび食品廃棄の課題に応えるテクノロジーのもう1つの例がブロックチェーンです。高い安全性が確保された分散型台帳のブロックチェーン技術は、サプライチェーンのあらゆる時点で情報が一元的に保持され、それらを追跡できるようになります。

例えば、流通している食品に健康上に問題がある可能性が明らかになったり、実際に回収が行われるというケースが発生したりしたとしましょう。その際にトレーサビリティを保証し産地がわかるようにしておくためにブロックチェーンを活用するのです。

最近では、アフリカ豚コレラの大量発生によりアジア全域で豚肉の供給に影響が出る事態が生じました。こうしたケースでも、関連当局やサプライチェーンに関わる企業が発生の元をたどって影響を受けた農場を特定することができれば、混乱は軽減され、豚の無駄な処分と不必要な食品の廃棄を防ぐことができます。

フードロスと食品廃棄が大きな問題であることは明白です。2030年までに飢餓を終わらせるという大きな目標を達成するためにも、それらは避けて通れない問題です。

そして、それらを解決する革新的なアプローチとしてIoTやアナリティクス、ブロックチェーンのようなデジタル技術を活用し、いま世界はこの目標に挑んでいるのです。